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父と追憶の誰かに(原文)(4)

「また怒られたんだ」
「喧嘩したのっ。マジむかつくんだよっ」
「時間の無駄だと思うけどねえ」
 どうせ最後は付き合うくせに素直になれないあんず。素直になる理由を与えてあげるため、私は仕方なく今回どうしてお父さんに不倫の容疑をかけたのかをきちんと話すことにする。別に言わなくたっていいだろうけど、まだお父さんが来るだろう時間までは少しある。私はあんずと違ってじっと本を読んだりするのが苦手なので暇なのだ。
 つまりこういうことだ。お父さんが若い女と電話しているのを聞いてしまった。昨日の晩、未だ怒りの炎が消えていなかった私は、遅くに帰宅したお父さんと目も合わさなければ口もきかなかった。早めの二階にある自分の部屋に引っ込み、雑誌を読んだりゲームをしたりしているうちに気付けば午前零時。歯磨きを先にしとこうと一階に下りれば、既に電気は消えている。安心して洗面所で歯磨きをしてキッチンでお茶を飲んでいると、ふろ、玄関に近いお父さんの部屋からかすかな声が聞こえた。特に興味もなかったんだけど、そろりそろり寝ぼけだふりをして近づくと、いつもよりかなり優しげな父の声が聞こえてきた。その優しさを娘に使ったらどうだといらだつのも束の間。お父さんが相手の名前を呼んだ。明らかに下の名前を、しかもちゃんづけで。お父さんはそれから相手に時間と場所を告げ、会う約束を取り付けて電話を切った。

父と追憶の誰かに(原文)


私は急いで自分の部屋へと戻った。
「会社の後輩とかじゃないの?女性率高めでしょ?」
「うちのお父さん、部下のこともさんづけで呼ぶからそれはない」
「そんであの時計台のとこにおじさんとその女が来るのね。無駄足だったらパフェ」
「証拠握れたら奢ってあげるよ」
「結果に関係なく労働分はきちんといただかないと」
「歩合制にしないとあんた何もしないでしょうが、アっ」
 とかなんとか言ってるうちに、来た。
 薄い水色のシャツに紺色のネクタイ、地味をぎゅっと固めたらああなるんじゃないかった姿でうちのお父さんが駅前のシンボル的な時計台のところに歩いてきていた。思わず身を屈める私。キャップとサングラスで完璧な変装だと思うけど、念のため。

父と追憶の誰かに(原文)


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